東海道新幹線からの山岳展望
新幹線から山座同定を楽しむ(3)静岡=豊橋
静岡県には大きな川が多い。東北新幹線でも同じであるが、大きな川をわたるときには、上流にすばらしい山岳展望が広がることが多い。川の流れているところは、必ずどこかで山が途切れるし、建物に邪魔されることもない。富士川についてはすでに述べたが、今回は安倍川、大井川、天竜川などが楽しみを約束してくれる。
安倍川には、すぐ近くの駿河大橋(国道1号線)の先に、もう一つ安倍川橋のアーチ群が見える。これは1923年に架けられたもので、歴史的価値のある鉄橋らしい。安倍川からの展望図として、大山から竜爪山までを示しておくが、南アルプスは意外に見えにくい。勘行峰の右手に見える高い山は、青薙山か悪沢岳であろう。手前には賤機山、浅間山が識別しやすくなっている。賤機山と浅間山の名前を混同して使っている人が多く、紛らわしいが、三等三角点の140mを浅間山、国土地理院の地図にあるように171mのピークを賤機山とするのが自然であろう。
右車窓の近くに迫る梵天山をやり過ごすと、トンネル群に入る。日本坂トンネルの出口で右手に見えるのは高草山で、上に日本道路公団の電波塔がある。
左側では有度山以降、安倍川を越えて左へカーブしたときに見える富士山が特筆される他は、とりたてて言うものはない。ただ、朝比奈川がある焼津市に入って振り向くと、焼津アルプスの末端の虚空蔵山の特異な形が海岸のすぐそばにあるのが目に付く。朝比奈川の上流側にも久しぶりの展望が得られるが、清笹峠付近の1000 m以下の山々が主である。場所によって、黒法師岳の頭が顔をのぞかせることもある。
焼津市では、町並みが立て込んでいるにもかかわらず、展望のきく地点がいくつもある。ここでは、東名高速道と交わる手前での展望を示す。かなり大きく見える高根山から飯間山までである。同定の助けになるのは、手前のこんもりとした潮山、大無間山、七ッ峰などであろうか。この図に現れている南アの高峰は、悪沢岳、イザルガ岳であるが、少し位置が変わると光岳なども見える。
大井川に到るまで南アルプスの山が入れ替わり立ち替わり顔をのぞかせる。大村中学校、住友ベークライト、県立藤枝養護学校などが見えるあたりも展望によい。しかし、一目見ただけで、なにが見えているかを指摘することはまず不可能であろう。
大井川の左岸からは、ほぼ真西の方角にある粟ヶ岳からはじまり、経塚山、八高山、高山、千葉山などが並ぶのが見える。左岸の延長上にある二つのコブをもつ低山は白岩寺山。南アルプス方面の展望には右岸からがよい。ここから見た、富士山を含めた大パノラマを示しておく。悪沢岳は比較的明瞭だが、大無間山と小無間山の間に見える赤石岳はかなり分かりにくい。また、この図からはみ出しているが、高根山の左には前黒法師岳なども見える。
大井川のあとはしばらく眺めのよくない所が続くが、掛川を過ぎると、俄然視野が広がってくる。ここでは、掛川駅の少し西から見た図を示す。大尾山から粟ヶ岳に至る1000 m以下の山々と富士山が見えている。富士山の左には掛川城が頭を突き出している。
掛川城は15世紀末に今川家の家臣である朝比奈氏が築いたものであるが、桶狭間の戦いの後、武田信玄と手を組んだ徳川家康の手にするところとなる。豊臣秀吉の天下取りのあと、山内一豊が城主となり、城の改築、城下の整備、天守閣の建設を行った。幕末の大地震で崩壊したまま時が流れたが、1994年に再建され、今は観光名所となっている。平山城であり、町並からは40 mばかり高いので天守閣からの眺めはすこぶるよい。親しみのなかった大尾山、八高山、粟ヶ岳などを始めて知ったのはここであった。
その後、愛野駅と袋井駅の中間点あたりまで広々とした展望が得られる。逆川→原野谷川→太田川と名前を変えていく川が、掛川から袋井を過ぎるまで、新幹線の北側をほぼ並行して流れているのも、好展望の一因かもしれない。原野谷川を渡る所でも、遮るものがない。
つぎの大展望は天竜川からである。大井川と同じように、黒法師岳、大無間山などが主役であるが、眺めに若干メリハリがなくなってきているようである。富士山も一段と小さくなっている。図に示したのは、天竜川右岸からの展望である。川から真北の方向には、白倉山、橿山、戸口山など、天竜川沿いの1000 m級の山並みが見える。その右に秋葉山の上に竜頭山が頭を見せる。そしてその右は、もう中ノ尾根山などの遠方の山となる。
好展望は川だけではない。浜名湖のような大きな湖でも、もちろんすばらしい眺めがある。弁天島駅の手前に少し幅のある水路がある。奥に浜名湖ロイヤルホテルの白い建物が見える地点である。ここからの図を載せておく。ホテルの奥には、三岳山と白倉山がほぼ重なっている。南アルプスの巨峰としては、聖岳、光岳、上河内岳が見えている。この図の右端は富士山で終わっているが、さらに右手には八高山なども指呼できる。
浜名湖の最後の鉄橋からも同様の景観が広がる。この鉄橋、および並行して架かる道路にはトラスなどがないので、晴れている限り、よい展望が約束されている。
浜名湖から南アルプス方向に気をとられていると、北側や西側の山並みを見過ごしてしまうが、ここには静岡と愛知の県境の山々が並んでいる。北側の正面には、そのあたりでの最高峰である富幕山がどっしりと座っている。頂上の電波塔が新幹線からも認められる。その右が尉ヶ峰である。左側には湖西連峰がある。東海道線の新所原駅から登りはじめることができる。500 m未満の山々であるが、眺めがよいことから、地元の人に愛されているハイキングコースが縦横にめぐらされている。右の三角形の山は464 m峰で、この辺りで最も高い。その左に、2万5千分の1地形図に、唯一名前が載っている坊ヶ峰がある。その坊ヶ峰のすぐ南が本坂峠で、東海道の脇街道がここを通っていた。新居にある厳しい関所を嫌った女性たちがよく利用したので、姫街道と呼ばれている。今も石畳の道が残っており、当時の雰囲気を味わうことができる。箱根の半分程度の高さとは言え、長旅の途中での峠越えは、大変だったにちがいない。
浜名湖と豊橋の間での関心事に、富士山がどこまで見えるかということがある。筆者が見た最も西の地点は、豊橋市に入って、日本フードの建物のある地点であった。もう少し西でも見えるという意見もあるので、もう少し検討する必要がある。