東北新幹線からの山岳展望
新幹線から山座同定を楽しむ(6) 新花巻=八戸
今回も郷土富士が二つ
前回話題にした郷土富士であるが、富士市のホームページにあるリストに基づき、筆者が実際に見たものを拾い上げると、17となった。別のリストに準拠すれば、全く別の数字となるので、正解はあるようでないようなものである。今回は、岩手山と名久井岳が郷土富士である。
早池峰と盛岡近辺の低山群
新花巻駅の7 km北にある戸塚森近辺で、右手車窓に、わずか10秒程度であるが早池峰方面が図のように見える。毛無森、鶏頭山、早池峰山の3山がならび、少し離れて右側に薬師岳がある。早池峰の縦走というと、早池峰、中岳、鶏頭山の3山なので、ついついこれらが並んでいるかと思ってしまうが、よく見ると中岳は判別しにくく、登山道から離れた毛無森が左端に見えている。
早池峰の続きともいえる山々が、矢巾付近で東側に見える。すぐに目につくものとして、南から順に、両側へ美しい翼を広げた黒森山、矢巾から飯岡にかけて正面に座る朝島山、そのやや左後の鬼ヶ瀬山などがある。これらの後に笠森山、桐ノ木沢山、岩神山なども見える。この領域は、筆者にとってなじみの薄いところで、登ったのは朝島山だけである。もう少し付き合いたい気がしている。
矢巾から朝島山・黒森山
同じ頃、西側車窓には、志波三山と名付けられた東根山、南昌山、箱ヶ森などが並ぶ。1000 m以下のものばかりであるが、8 km程度しか離れていないので、迫力のある姿で迫ってくる。盛岡近くまで行くと図に示すような眺めとなる。手前にあるピラミダルな飯岡山は、周辺の山を同定する際のよい目安となる。
岩手山と秋田駒ヶ岳
同時に、岩手山の登場である。東北新幹線から見える2000 m峰で、これだけ近いものは他にない。矢巾を過ぎて少しカーブした後で、岩手山らしい堂々たる姿になってくる。今回取り上げた図は、岩手飯岡から見たもので、岩手山から湯ノ森山までである。さらに盛岡駅に近づくと、その左手にある秋田駒ヶ岳が見え始める。
盛岡駅を出てからも、しばらくは目が離せない。秋田新幹線と分かれたあとの西側には、図に示すように、奥羽山脈の30 kmを越える大パノラマが展開する。秋田駒ヶ岳の南に五番森、和賀岳などの峰々が見えてくるのである。和賀岳は、東北のミニ日高と言われるくらい、アプローチが長く、奥深い名山である。新幹線からも見ても、いかにも近寄りがたいという印象を与える。46号線と交差するあたりまでがお奨めの地点である。もう少し進み、厨川中学校付近になっても、秋田駒方面は見え続けてはいるのであるが、鳥泊山等々によって下半分が隠されてしまう。一段と近づいた岩手山も、沼森、谷地山などの前衛峰が円錐の下半分を塞いでしまう。
このあたりの山を深く愛した文人といえば石川啄木に尽きるだあろう。「一握の砂」にいくつも山の詩が出てくる。中には、今回のテーマにふさわしいものもある。
汽車の窓 はるかに北にふるさとの山見え来れば 襟を正すも
熱心に窓に顔を押しつけている姿が目に浮かんでくる。この山は、多分岩手山なのであろうが、姫神山であっても違和感はない。
トンネルの狭間で見る姫神山、西岳、八幡平
姫神山は高さこそ低いが、孤高を誇る、姿の美しさという点で、この区間では岩手山とともに頭抜けた存在である。新花巻近くからもすでに見えているが、岩手飯岡近くになると、その秀麗な姿は、誰の目にもとまるようになる。盛岡駅を過ぎると、さらに接近してくるので、見栄えもよくなる。盛岡と沼宮内の間にあるトンネルの切れ目で、姫神山を一瞬見ることがある。距離的にもわずか5 kmしか離れておらず、姿もよいのであるが、見えるのは一瞬で、前山の上に見えるだけなのが惜しい。
もう一つ、1000 mに届かないが見逃せない山として七時雨山がある。盛岡駅を出てからしばらくすると、東側の窓から御月山、西岳などと共に見える。さらにはっきりと見ることができるのは、いわて沼宮内駅に近づいてからである。芦田内トンネルを出た直後で、図のように3つの峰が並ぶ七時雨山が比較的大きく見える。これは、岩手県北部の山に登ったときに、すぐに目につく山で、福島の二岐山のような存在である。西岳は進行方向に近いので少し見えにくい。七時雨山と西岳の丁度中間に田代山がある。その右に、田代山より40 mほど高い隣の無名峰が聳えている。積雪期には、これらは西岳に比べてはるかに白く見える。
いわて沼宮内駅を過ぎると、これらの代わりに最後の岩手山がうしろ方向に見える。川原木トンネルを出た所で、一瞬だけ西岳がかなり大きく見える。そのあと、陸上のトンネルとしては世界最長の岩手トンネル(25.8 km)に入る。八幡平を見つけるのは大変難しい。巻堀トンネルの南、および芦田内トンネルと丹藤トンネル間の芦田内川で、短時間見える。
二戸駅では東側に、どっしりと横に広がっている折爪岳が間近に眺められる。全国でも有数の電波中継点であり、山頂にはアンテナが林立しているが、それらが車窓からでもよく見える。
いよいよ青森の山
二戸と八戸の間もトンネル続きであるが、金田一トンネルを出てから、後方を振り返ると、馬淵川の先に名久井岳のゴツゴツの姿が見える。高岩トンネルでカーブするので、それより北では見えなくなる。在来線は名久井岳の裾を回っていたので、刻々と変化する姿を見るのが楽しみであったが、新幹線になってからは束の間の遠望となってしまった。
高岩トンネルを出ると東側に田園風景が広がり、その先に階上岳がゆったりと遠くに横たわっている。西側には、十和田の山や八甲田の山々があるものの、線路が高架になっていないため、よい展望が得られない。家々の間に、キリスト伝説の戸来岳のごく一部が、ごく短時間見えるが、どのピークが見えているかもわかっていない。八甲田の方は数回見ることができるので、櫛ヶ峯、駒ヶ峯、八甲田大岳、赤倉岳などを指呼することができる。青森の盟主といえる山域であるが、それにふさわしい姿で見ることはできないのは残念である。
とうとう終着の八戸駅に着いた。しかし、2010年頃には新青森駅まで延びることになっているので、今回の展望記も暫定的なものでしかない。新区間には、26.4 kmの八甲田トンネルをはじめ、全部で18ものトンネルがあるという。展望は限られたものになるかもしれないが、八甲田をぐるりと半周するので、今から楽しみである。
次号に、読者のみなさんからのご指摘を反映した補足が掲載される。色々とご教示いただければありがたい。