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東北新幹線からの山岳展望

これは『新ハイキング』20064月号〜10月号に掲載された記事に手を加えたものです。



新幹線から山座同定を楽しむ(7) 補遺



連載の途中で学んだこと

この連載中に、東北新幹線からの山岳展望の本を見つけた(※)。インターネットでもいくつかのサイトが見つかった。ほとんどの方は山岳展望シミュレーションソフトを駆使しているので間違いが少ない。船水康宏さんのホームページ(http://homepage3.nifty.com/TYF/index.htm)には、思いもかけない発見がいくつもあった。筆者が20年かけても見たと断言できない山々の名前も出ている。写真の質もはるかによい。

パソコンを駆使すればいとも手軽にできる山座同定を、筆者のように手間暇をかけてやることは馬鹿げているかもしれない。見えた山の名前を報告するだけなら、パソコンを使えばすむのである。ただ、「このようなことに多くの時間を使い、一喜一憂している人がいるのも面白い」と感じていただけたら、幸いである。

そして、頂上に登るだけでなく、周辺の山を歩いたり、手前の町にある建造物の同定など、現地踏査にこだわった。自らの眼と脚を駆使することは、山歩きの原点だからである。


「日本百名山」の30座が見えるはず

記事として発表するとなると、入念にチェックする必要にせまられた。展望図を一つ一つ確認していくと、これまでの作業の不備がいくつも見つかった。各スケッチで何らかの思い違いがあった。発行後も、まだまだ間違いが残っているだろうと覚悟した。これは、山岳展望ソフトを使わないで、手作業で同定を進めることの限界なのだろう。実際、かなりの誤りがあることが、読者からの指摘などで判明した。だが、
このようなやりとりこそ当初から期待していたことなので、大変嬉しいことでもあった。
さて、間違いをお詫びしたい。編集部の好意で補足記事を出していただけることになったのは、筆者にとって大変有り難い。誤りが訂正されないまま、印刷物として恥をあとあとまで残すのは嫌なものである。指摘していただいた読者の方々にも、心よりお礼を申し上げたい。
手作業の限界と言えるが、指摘されて考えてみると「もう少し注意しておれば、避けられた」という事項も多い。それ以外に「とてもそのような山が見えるとは思わなかった」というのもあった。

小山駅からの谷川岳(第1回)
「太平山と袈裟丸山の間の窪みに、万太郎山と谷川岳が顔を覗かせる」は、間違いであった。この部分は、船水さんの記事に詳しい。

鬼怒川からの夫婦山(第2回)
鬼怒川からの展望図で夫婦山と書いたのは月山であることも何人かの方から指摘された。片岡駅を過ぎてもう少し北のシャープ工場の所から撮った写真には、すっきりと月山、夫婦山が離れて写っていたのに、見過ごしていた。

国見からの阿武隈山系(第4回)
一貫山は一貫森の誤りである。

戸塚森からの早池峰山(第6回)
 高倉山と同定したのは間違いで、それより手前の無名峰である。

数カ所から八幡平(第6回)
 1613 m峰を八幡平というように呼ぶこともあるが、筆者は八幡平一帯という意味で使っていた。その点で、少し曖昧であった。

間違った記述をしたというわけではないいが、実際には見えているのに、筆者には同定できなかった山がかなりあることも教えられた。特に、「日本百名山」(深田久弥)に限って、取りこぼしたものを書いておこう。八戸までの全区間で確認した百名山の数を22座と暫定的に記しておいたが、30座というのが正解のようである。筆者自身で見たことがないものの、見える可能性があるものとして、天城山、苗場山、四阿山、草津白根山を挙げておいたが、この他に、金峰山、赤岳、蓼科山、月山が見えるという。中でも、月山が見えるとは、全く意表をつかれた。何回も登り、何十回と眺めたことのある山を見落としていたのである。


477
座を同定。登った山は256

再確認する過程で、同定済みの山の数がかなり増えた。連載開始時には、同定した山の数は430であったが、現在は477に増加した。もっと時間を使って、写真や地図とにらめっこすれば、まだまだ増えるはずである。他の人が確認したものを入れると、その数はさらに増えよう。ただ、それに意味があるかどうかは、別の問題である。

登った山も230から256に増加した。連載を始めてから、前から気になっていたいくつかの山に登った。実際に登って確かめることをキャッチフレーズにしていたが、その一環である。その紹介もかねて、車窓からではなく、山歩きで撮った展望写真をいくつか載せておこう。

荒川から大岳山のずっと左手に笹尾根が見えているらしいと気づき、歩いてみた。歩いたところで、荒川鉄橋が見えるはずもないのであるが、やはり何らかの感触は得られるものである。それに、小金沢連峰から大菩薩嶺に連なる姿がよく見えた。荒川からの展望とは少し角度はずれるが、それでも、なにかと参考になる。

三国峠から大菩薩嶺方面


高水三山に登ってみた。新幹線から見えたことはないが、見えているはずの山々である。山の上から、関東平野の一部を見ることができたが、どこが見えているかはほとんど分からなかった。ただ、惣岳山の北で西側が開け、御前、大菩薩、鷹巣、本仁田のピークが見えたのは嬉しかった。



惣岳山の北から秩父の山々


久喜付近で見える榛名も、ボコボコと並んでいるだけで分かりにくい。榛名富士にしか登ったことがなかったので、掃部ヶ岳から相馬山までの外輪山を歩くことにし、途中でも様々な角度からの榛名を眺めた。榛名の概要を把握できて、有益なハイキングとなったが、それでもすべてが完全に解決したとは言えない。たとえば、新幹線から天目山が見えているかどうかは曖昧なままである。



高崎のホテルからの榛名山



途中のバスの中からの榛名山



掃部ヶ岳西峰からの榛名山


階上岳の右手に久慈平岳が見えるかどうかも気になっていた。階上岳に登ってみて、久慈平岳をなんとか見ることはできたが、それはなんの助けにもならなかった。久慈平岳に登って、八戸駅方面が見えるかどうか調べた方が、よかったかもしれない。一応「見えない」という結論をだしているが、多少自信がない所がある



階上岳から久慈平岳


山からの展望では、展望した場所が自明であるため、あとで同定するのも楽である。車窓からではそうはいかない。デジカメを使うようになって、撮影時間が秒単位で記録されるようになり、かなり楽になったが、それでも観察地点の確定には最も力を傾けたところといえる。観察地点がいったん確定すれば、あとは種々のサイズの地図を並べて、同定することになる。それとともに、見知らぬ山や村の風景をイメージする過程が楽しい。


尽きることのない「宿題」が

仙台から関西に転居し、東北新幹線は終わりにするつもりでいた。しかし、いくつも気がかりは残っている。

◎ 新白河と郡山の間の西側に、まだ足を踏み入れたことがない空白地域がある。そのためもあって、同定も少し手抜きしたままになっている。

◎ 磐梯山の手前の川桁山、天狗角力取山、大滝山、二ツ森の一帯は、一応の結論を得たと思っているが、すっきりしない点が残っている。質のよい写真が撮れれば、もう少し考えたい。

◎ 栗子山の北は、七ッ森までは間違いないが、そのさらに北が曖昧なままになっている。

◎ 一関=新花巻間の東側は、顕著な山がないこともあり、同定作業をしないままに終わっている。

◎ 秋田駒の北の烏帽子岳(乳頭山)も気になっている。多分どこからも見えないのではないかと思っているが、見えないということを証明することは難しい。

◎ 八戸駅近くから十和田の山が見えるのは間違いない。しかし、ほんの一ヶ所か二ヶ所から一瞬間見えただけなので、どのピークが見えているのかは不明のままで終わっている。

また、読者の方からの指摘などで初めて知ったことも多い。いずれ自分の目で確認したい。宿題が沢山できてしまった。

※ 藤本一美・田代博、『車窓展望の山旅』実業之日本社(2000

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