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東北新幹線からの山岳展望

これは『新ハイキング』20064月号〜10月号に掲載された記事に手を加えたものです。



新幹線から山座同定を楽しむ(3)那須塩原=福島



見つけるのが難しい山々

前回に出したかなりマニアックな宿題であるが、「いずれも新幹線の車窓から見ることができる」というのが正解である。高原山の鶏頂山は、宇都宮市の北山霊園付近からなら見える。鬼怒川まで北上すると西平岳に隠れてしまう。前黒山は
黒磯以南では全く見えないが、黒磯までくるとその東側にあるより目立つピークの右肩に顔を見せる。三倉山はよほど南でないと見えない。鬼怒川ではピークとして見えるが、それより北では大倉山の左にコブとなり、やがて全面的に隠れてしまう。


那須連峰からいよいよ東北入り

前回、西那須野から見た那須連峰の姿を載せた。今回はもっと北へ進み、福島県に入った白河からのものを示す。那須の姿としては、黒磯から辺りからのものが一番なのであるが、今回はそれを省略し、南側と北側から見た姿を比較してもらうことにした。黒磯では茶臼岳が「われこそは那須の盟主なり」といった風にどっしりと構えているが、白河からでは盟主が何人もいるようで、これはこれで捨てがたい。三本槍岳は栃木県と福島県の県境に位置する。甲子峠の北となる大白森山、二岐山などを見ると、いよいよ東北に入ってきた実感がわいてくる。


二岐山は文字通り二つのピークからなっており、どこから見てもすぐに分かる姿をしているので、東北の山々からの展望によい手がかりとなる。他所から眺めるのがよいだけでなく、登ってそこから眺める光景もすばらしい。高い方の男岳からは360°の展望が楽しめる。二岐山は少し奥まった所にあるが、意外なことに新幹線からは郡山の北からでも見える。


郡山からは磐梯、吾妻、安達太良のそろい踏み

白河と郡山の間はトンネルも多く、見るべきものが少ないが、須賀川に入ると西側に八幡岳などの1000 m級の山々が連なっている。東北自動車道を越え、在来線と交わる辺りからはすばらしい景観が広がる。スケッチに示したのはそのあとで阿武隈川を渡るところからのものであるが、条件がよいと磐梯山、吾妻山、安達太良山を一望できる。


磐梯山は裏側からみるものとは違い、会津富士という別名にふさわしいピラミダルな姿を見せている。吾妻で見えているのは、西大顛、西吾妻山、中大顛、および中吾妻山で、さらにその右に少しだけ東大顛も見えているであろう。ただし、東大顛は郡山駅よりかなり南の地点からでないと見えない。写真は、あえてスケッチ図と違う地点からのものを載せた。スケッチ図から8 kmほど北に行った地点(国道288号線の少し北)からであるが、磐梯山が頭だけになり、櫛ヶ峰や中吾妻山も視界から消えている。



郡山の北から磐梯山・吾妻連峰・安達太良山


東側車窓に広がる阿武隈の山々


郡山前後では、東側車窓にも阿武隈山地の山々が入れ替わり立ち替わり顔を見せるので忙しい。南側から蓬田岳、二ッ石山/一盃山/日影山、鞍掛山/黒石山/高柴山の両トリオ、その奥に阿武隈山地の最高峰である大滝根山、さらにはお椀を伏せたようなとした片曽根山、この辺りでは珍しく岩峰でできている鎌倉山、端整な移ヶ岳を経て日山、麓山まで特徴のある山々が並んでいる。花を楽しめる山が多いが、中でも高柴山のヤマツツジの群落は圧巻である。
大滝根山は阿武隈山地で最も高いが、鞍掛山などの後方になるので、郡山駅より北側でないと見えない。大滝根の名前は、9世紀初頭に坂上田村麻呂と激しい戦いをした大多鬼丸に由来する。彼らが立てこもったという鬼穴が山中にある。洞窟なのに窓まである贅沢な隠れ家ある。冬でも中に入るとムッとするくらいの暖かさで、外からは全く見えないのに中は広々とし、あぶくま洞までつながっているという。大和朝廷が東北地方を支配下におくのに苦労していた歴史を理解する上でも、一見の価値がある



智恵子のふるさと安達太良山

安達太良山は郡山、二本松、福島で存在感のある姿を見せてくれる。二本松の辺りで最も近づくので、見応えがあるのだが、新幹線からはなかなか見えない。松川トンネルに入る寸前、安達ヶ原ふるさと村の所から数秒間見えるのがもっとも長く見える部類である。そこからの眺めを図に示している。
二本松は高村光太郎の妻智恵子の生まれ故郷である。山に興味がなくても、智恵子抄に出てくる「樹下の二人」を通して、安達太良山の名前を知っている人は多いであろう。その詩は
もう一度この冬の初めの物寂しいパノラマの地理を教えて下さい。

   あれが阿多多羅山、
   あの光るのが阿武隈川。

で終わる。これが作られたのは二本松にある智恵子の実家の裏山なので、この図よりさらに近づいたところから安達太良山を見ていたことになる。安達太良山が真西に見え、南から流れてきた阿武隈川が東へと折れ曲がる近くである

松川トンネルに入る寸前の阿武隈川の鉄橋付近からは、安達太良山だけでなく、反対側に阿武隈山地がすぐそこに見える。西側の安達太良山につい気が取られて東側はお留守になるのが人情であるが、たまには反対側も見て欲しい。少し奥になるが阿武隈山地で2番目に高い日山をはじめ、北側へ順に、麓山、白猪森、口太山、木幡山が並んでいる。日山は、日本で富士山が見える最北地点ということで有名である。

先ほどの詩で、阿武隈川の先に広がっていたパノラマの中心はこのような山々だったに違いない。このような低い山の名前を智恵子は光太郎に教えられただろうか。昔から色々の伝説がある山なので、地元人の智恵子ならある程度は知っていたかもしれない。


山好きにはたまらない吾妻連峰

郡山からも吾妻が見えると書いたが、それは吾妻連峰の西半分だけであり、東側の山々の展望は、新幹線が長い松川トンネルを出てからのこととなる。ここに載せた図は、土湯峠を越えてきた国道115号線が新幹線と交わる地点で、真正面から吾妻連峰を見たものである。20 kmの近さに、これだけ質量感のある山々がどっしりと腰を据えているのであるから、山好きにはたまらない。この中で、もっとも目につきやすいのが吾妻小富士である。高さこそ他に劣るが、最も手前にあるその可愛らしい姿には誰もがすぐに気がつくだろう。その左が東吾妻山、右が一切経山で、両者とも1900 mを超え、この山域の重鎮である。吾妻連峰の北には栗子山周辺の峰々が並んでいるが、その全容を眺める最適ポイントは福島駅手前の荒川鉄橋のところである。栗子山も、その南にある1202 mの方が目立つので、見つけにくい山の一つである。



今回も宿題をだそう。那須もかなりの距離、南から北までにわたって見える。その南限と北限はどこだろうか。

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