2008. 10. 21-25 雨乞岳、七人山、イブネ、クラシ、綿向山
今年は縦走形式が多かったので、今回はスタイルを変えてみた。一ヶ所にとどまり、じっくり、ゆっくりと楽しもうというものだ。春に予定の半分しか歩けなかった神崎川上流に再挑戦。「鈴鹿の初心者なので、少しずつ付き合っていきます」という謙虚な態度で臨むことにする。4泊5日なので、南アの縦走並のはずだが、今回は移動しないので少し贅沢な食料、まな板・包丁、スリッパなどを付け加えたので、少し重くなったかもしれない。
同行: 単独
2008.10.21 永源寺から鉱山飯場跡まで |
コースタイム
1007 永源寺山上BS、1044 和南(ワナミ)、1111-56 甲津畑(コウヅハタ)、1240 車止め、1331 桜地蔵、1348 ツルベ沢出合、1409-26 蓮如上人遺跡、1538-50 杉峠、1608 鉱山飯場跡テント場
もう少し後で紅葉が盛りになってから行くつもりだったが、前夜の夕食時に突然行くことに決めた。23時頃に買い物に行き、準備で就寝が24時を過ぎてしまった。しかも、夜中に目が覚めてしまったので、寝不足だったが、予定より1時間遅れで出発した。杠葉尾へのときと同様、1時間遅らせたにもかかわらず、永源寺でのバスの乗り継ぎは非常に悪い。甲津畑は、春に歩いた杠葉尾への道に比べてうんと距離が短いので、また歩くことにする。あまり車も走っていないので、田畑、野の花(ユウガギク、ミゾソバ、セイタカアワダチソウ、ススキ、ツユクサ、イヌタデ、アザミ、ヨウシュヤマゴボウ)、和南や甲津畑の集落などを眺めながら歩くのは決して悪いことではない。向山、イハイガ岳なども見えてくる。
甲津畑には、信長が美濃に逃げ帰るときに馬をつないだという「勘六左右衛門の松」がある。故事はともかく、すばらしい風格の松で、いまだに大いなる生気を保っている。集落のはずれに、丸太が転がっており、日差しを避けられたので、そこに座って昼食をとることにする。最初は日を避けて座っていたが、ヒルが出るかもしれないと、後半は日なたに移る。少し歩くと三差路になっており、左手は「イワナ釣り」という案内があった。右手の立派な道に誘い込まれたが、やがて高みに登っていき、集落が右下に見えてきたので、これはおかしいと引き返す。とにかく最近は車登山が標準なので、バスで来たり、歩いてきたりする人には、親切でないと感じることがしばしばである。橋を越えてから、北北西に向かって徐々に高度を上げ、東に方向転換すると勾配もなくなる。「イワナの里・永源寺グリーンランド」という釣り場を下に見ながら進むと、すぐに登山口となる。登山者カードを記入するようになっていて、近くに数台の車が停まっている。
その後も道は狭くなるが、舗装された道がつづき、地道になるのはしばらくしてからであった。登山口から1時間ほどでツルベ谷出合(大峠への分岐)となるが、道をはずれて少し入っていかないと詳しいことは分からない。この辺りは古屋敷跡と言われているそうで、昔の石組みなどが残っている。その後、蓮如上人が比叡山の衆徒に追われたときに隠れた炭窯を模したものがある。ベンチもあったので、一休みしてミカンを食べる。上から若い人が一人で下りてきた。雨乞岳をピストンした車登山者らしい。
そこを出ると胴回りが数mはある大木がある。カバノキ科のシデという。老木に特有の深い溝が刻まれており、森の王者の風格がある。杉峠の方へ登っている途中で中高年の夫婦とすれちがったのが最後だった。何カ所もきれいな沢を渡るので、口にしてみたが、それほどの美味ではない。沢の音も聞こえなくなり、足下の落ち葉を踏むかすかな音が、静かさを際だたせていたとき、突然すぐそばで鹿の鳴き声が響く。やがて上の方が明るくなり、杉峠に到着する。正面に国見岳、その右手に御在所山の一部が見えている。南方には枯れた杉の向こうに雨乞岳の前衛峰が渋い色に染まっている。十分明るいうちにテント場に行けそうなので、また腰をおろして、周りの景色を楽しむ。杉峠から東側に下りていくと、右手の神崎川の源流の対岸が紅葉しており、なかなか美しい。左側にも沢音が聞こえてくると、まもなくマンガン鉱山の飯場跡に到着する。
森の王者、大シデ
あまり物色することなく、最初の平地にテントを張ったが、まだまだ多くの平坦地があることをあとで知った。しかし、豊富な水が10bほどの所に流れており、杉峠にも近いので、最適地だったかもしれない。コーヒーを飲みながら米を炊く。連泊するので、2食分炊いたが、かえってうまく炊けたようだ。これまで、快晴が続いていたので、枯れ木も乾いており、たき火が簡単にできる。ゴミ処理ができるし、気持ちも暖かくなる。ヒルも出そうにない。夜は、夏の大三角形、カシオペア、シリウスなどが見えているが、天の川までははっきりしていない。19:30には、寝袋に入る。夜中に、鹿の鳴き声がすぐそばでしたので目が覚める。21:40だった。ねぐらに戻れない子鹿を親鹿が呼んでいるような雰囲気だった。
テントを張った飯場跡
2008.10.22 雨乞岳、コクイ沢、小峠 |
コースタイム
745 テント場、803 杉峠、833-41 雨乞岳(1238)、852-56 東雨乞岳、919 七人山コル、927 七人山(1073)、934 コル、1010-15 武平峠への分岐、1038-1109 クロ谷出合、1130 コクイ谷出合、1148 根の平峠への分岐、1158-1208 上水晶谷出合、1255-1303 小峠付近の登山道、1328-48 本流に下りる、1425 イブネ方向の沢に迷い込み引き返す、1445 本流、1532 佐目峠への分岐(難路)、1545 テント場
今回は、目標をきっちりと決めていないので、目覚ましもなしで、起きたときに起きるスタイルである。この日は5:45に目が覚める。野菜不足を補うために持ってきたジュースを一口飲む。曇り空だが、雨は降っていない。ヒマラヤの時のように、紅茶で水分を取り入れる。棒ラーメン1本、餅1コに、ミョウガ、ほうれん草、焼き豚を入れて朝食。
この日の概略の予定は、雨乞岳、七人山に登ったあと、多くの人が難渋したというコクイ谷を下りるのが、メインイベント。大きなザックにごく僅かのものを入れて、気楽に杉峠へと歩き始める。途中の道にはヨメナのようなキク科の花があるくらい。ありふれているが、なかなか名前が分からない。
杉峠の杉
杉峠から雨乞岳の方へ100bほど登ると少し平坦になる。その後、悪名高いイブキザサが密集している所がある。しかし、頂上までのほんの5分程度であり、祖母傾の縦走路に比べるとスケールが小さい。頂上には、杉峠へという標識はあるが、南雨乞岳はおろか、東雨乞岳への標識さえない。周りが見えないので、慎重に磁石を見ながら足を踏み出す。野洲川の源流への道を右に見送り、すぐに東雨乞岳となる。すばらしい展望所であることがよく分かる広々とした山頂だが、この日は何も見えない。ここには、武平峠への道案内があった。どんどんと下っていくと、正面に七人山のなだらかなピークが見えてくる。急に右折するところが七人山のコルで、直進すれば七人山へと導かれる。気分のよいところらしいので、寄り道する。テープもそこそこはっきりしているが、道そのものは落ち葉が積もっており、ほとんどないも同然である。最後に少し右手にカーブすると、ブナの木にナイフで山名が刻まれていた。確かに気分がよい所で、テントを張りたくなる所だ。水は近くにないが、コルに戻り、クラ谷を下りていくとすぐに源流の水があったので、これを使うと問題ないかもしれない。
東雨乞岳
七人山
クラ谷の沢の流れがかなり太くなってきた頃、右手に武平峠への道が出てくる。少し入ってみるとどんどん高くなっていくので、沢沿いの道があるはずと引き返す。やはりテープがあった。この辺りからコクイ谷と名を変えるのであろうか。よく分からないまま、クロ谷出合という標識まで下った。ここでGPSを取り出すと、間違いなくコクイ谷の真ん中にいる。現地点を確認して安心すると、本当に気が楽になる。オハギ、リンゴ、甘納豆などを口に入れながら、休憩する。腰を下ろしたのは3時間ぶりである。そこからコクイ谷出合までは20分ほど。ここは要衝の地点らしく、あちこちへの道標が完備していた。
根の平峠への道を進むと、「左手:神崎川の途中、右手:根の平峠」という三差路となる。今回は稜線歩きはせずに、奥座敷にとどまることが主目的なので左への道へ進む。上水晶谷が見えてきたあと、そのまま本流の方へ進むと、すぐに上水晶谷出合に降り立つ。またザックを下ろし、小休止する。空が暗くなり、ポツポツと雨も降り始めた。もう少し下流まで行くつもりだったが、雨の沢にとどまるのも感心しないので、小峠を経由するショートカットの道で帰ることにする。25000地形図にも点線があるので、楽勝の道かと思っていたが、そうではなかった。
入口にはテープがあったが、沢を詰めていっても一向に次のサインはない。倒木などもあり、大変かなと思っていると、二股になった所に、左へ行けという赤いテープが垂れ下がっていた。元気を取り戻して、登っていくと、さらに二股になっていた。空もそれほど遠くない所に見えるので、適当に右の沢に入っていった。徐々に傾斜が急になり、花崗岩の崩れやすいザレ場になる。登りにくいこと甚だしい。ホールドもスタンスもなかなか見つからない所を、苦労して登っているうちに、左手のポールを落としてしまう。10mほど下で止まったが、ポールを2本持っていてもあれだけ苦労したのに、そこを1本で下るのは命がけだ。買ったばかりのものだったが、あきらめることにした。出発前に細引きを一度ザックに入れていたのを、少しでも荷物を減らそうと、取り出してしまった。それを持っておれば、取りに行ったかもしれない。しかし、細引きをザックから取り出すのも、難しかったかだろう。他の人のHPを見ていると、とくに難儀もしていないようなので、正しい道を見つけるのに失敗したのだろう。25000の地図にあるガレ場のマークの所を登った可能性がある。
なんとかかんとか、樹林帯に逃げ込むことができた。踏み跡もある。小峠がどちらかは分からないが、とにかく南の方角に足を向ける。テープも出てくる。しかし、そのうち、またテープが見あたらなくなり、GPSで調べると、登山道(?)より西側にずれている。谷のような所に入り、下っていくと、やっと本谷(御池谷という名もあるそうだが、地図に谷の名前が出ていないので本流とされているらしい)に沿った登山道に出ることができた。その地点は、まさに25000の登山道の下り口と同じ所だった。
小峠付近でウロウロしていた所
その後、飯場跡へは一般道をただ登ればよいだけである。それなのに、また、道をそらせてしまった。右手の沢に入り込んでしまったのである。ちょっとした登り道で、下ばかり見ており、左折を指示しているテープを見落とした。直進の道がいかにもしっかりしているので、何の疑いももたなかった。多くの人が直進して間違うため、しっかりした道になっていた。鉱山跡の鉱口や鉱滓の山を見物しながら、登っていると、そのうちとても一般道とは言えない雰囲気になってきた。GPSでチェックすると、イブネの方向に歩いており、900bm位まで登ってしまっている。1時間近いロスで本道に戻る。時間がたっぷりあるのでよかったが、切迫したスケジュールの時なら大変なことになっていた。「鈴鹿手強し」を再認識した一日であった。15:45にテント帰着。身体が暖まっているうちに、頭、顔、腕、足を洗い、身体を濡れタオルで拭いてすっきりする。強くはないが、雨がずっと降っていたので、この日は焚き火を断念する。コーヒーのあと、夕食とする。スリッパをもってきたので、とくにこのような雨模様の時は助かる。19:00にシュラフへ。
2008.10.23 イブネ、クラシ、東尾根 |
コースタイム
645 テント場、705 杉峠、720 杉峠の頭、733-40 佐目峠、753-800 イブネ(1160)、816-24 クラシ(1145)、833-48 イブネの北端、855 イブネ、910 NNWの沢、923-50 イブネ、1000 イブネ北端からEへ、1040-53 引き返した小沢、1140 イブネ北端、1147 イブネ、1212 杉峠の頭(1121)、1231 杉峠、1245 テント場
4:50に起床。この日も雨模様で、朝食もテント内で作る。もち3個入れた玉子スープに、タマネギ、コンビーフ、チクワなどを入れて食べる。この日は憧れのイブネ、クラシ行きである。できれば銚子の方にも足を伸ばす予定で、はじめから雨具をつけて出発する。上り下り併せて3度目の杉峠への道である。杉峠で右折して登りついた杉峠の頭付近の雰囲気がとてもすばらしい。佐目峠への道の途中で2度ほど大きく方向を転換する所があるが、落ち葉が敷き詰められており、標識がないと難しい。峠から佐目峠まで30分程度だった。ここまでテントを移すことも考えていたが、雨の中でテントを畳んで、再設営する気にはとてもなれなかった。風もここの方が強いこともマイナス点だ。
これでも正規の登山道
佐目峠
テント場と水場を確認して、イブネに向かう。風が強く、雨はガスに変わってきた。イブネからクラシの方へ進む。すぐにイブネ北端と言われる所に来る。「北はクラシ、東は???」という標識を見て、クラシに向かう。山火事の跡のような黒焦げたササが広がっているが、立ち枯れらしい。ヒカゲノカヅラやシダ類も多い。マムシソウの実が、唯一華やかさを添えている。ガスはますます濃く、展望はなにもない。クラシでは標識を見ただけで引き返す。
イブネに戻り、銚子へ行くべく、北北西方向の道を探るが、全く見つからない。15分ほど下ってみたが、ナメになったような沢が下で行く手を遮っているので、引き返す。この探検のおかげで、イブネの平原から5分ほど下りるだけで水が得られることがわかった(好天続きのあとでは分からないが)。まあ今回はゆったりと楽しむのが目的なので、それ以上南への道を追求するのはやめて、イブネのアセビの木陰で雨風をよけて座り、簡単な間食をとる。流れるガスを眺めているだけで、十分美しく満足できる(あとで他人のHPを見ていると、銚子の方へは、イブネから行くのではなく、クラシから行くのが正しかったようである。いくら探しても見つからなかったはずだ)。
イブネ
そのあと、もう一度イブネ北端に行き、東へ下りる尾根を歩いてみることにする。多分小峠へ出る道なので、前日の道迷いの原因が分かるかもしれないと期待した。ここは実にマメにテープが巻いてあり、これならいくら手強い鈴鹿でもなんとかなろうと楽観する。10:30にGPSを取り出すと、小峠までの2/3は下りてきたことが分かる。その10分後に沢に出会う。ところが、対岸には何の印もない。沢を渡ってしばらくあちこち歩いてみたが、まったくテープがない。これまでの頻繁な巻き方とあまりにも落差が大きいので驚く。前日の手強い鈴鹿に、少し気が弱くなっていたのであろう、安全策をとって引き返す。頻繁にあるテープを見逃さないように戻るが、それでも1、2度ウロウロした。(後日もう一度ここに来たときに分かったが、沢を渡らず左岸に沿って降りるとよかったのだ)
イブネから杉峠の頭の間がやはりすばらしい雰囲気をもっている。風は強烈であるが、雨乞岳やイブネの霧が多少薄くなり、なんとか全体像がつかめるようになってきた。少し粘ってみたが、それ以上の好転が見込めなかったので、テントに戻る。12:45である。風はあるが、雨はないので、濡れたものを木の枝にかけ、できるだけ水分を減らす。昼食のあと、記録を整理したりしているうちに、夕食準備の時間となる。雨が強くなり、外に出られなくなる。18:30にシュラフへ。テントの雨音がうるさいが、耳栓をするとほとんど遮ることができた。夜中に目が覚めると、雨音以外の音が聞こえる。沢の水が増水したためと分かったのはしばらくしてからであった。
杉峠の頭
イブネ方面に流れるガス
2008.10.24 コクイ沢出合、佐目峠 |
コースタイム
900 テント場、940-45 源流を渡渉、1000-15 コクイ谷出合、1025-28 源流を渡渉、1110 佐目峠への道標、1200-15 庭園のような所、1218 佐目峠、1240 杉峠、1253-1326 テント場、1332 佐目峠への道標、1343 大きな沢の渡渉地点を確認し、引き返す、1410 佐目峠への道標、1420 テント場
6:15に起床。かなりの強い雨で、停滞を覚悟する。学生の頃には、双六、飯豊、剣で停滞を余儀なくされたことがあったが、それ以来である。沢の大きな音は、本流でもなく、水を汲んでいた沢でもなく、すぐ前の登山道を水が流れ落ちる音だった。テント内を整理していると、マットの上をヒルが歩いている。寝ているときに噛みつかれなくてよかった。すぐに持参したアルコールで退治する。そのあと少し丁寧に調べたが、他にはいなかった。
7:40に朝食後のコーヒーを飲み終わる。8:00頃、やや小降りになったので、目の前にできた新しい沢で食器を洗い、水汲みをする。登山道を流れているのであるが、きれいな水である。テントの前に流れてきている雨水の方向を変えるべく、土木工事をする。すぐにテントの前の水溜まりが消えた。8:30に本谷の様子でも見に出かけようかとしていると、また雨脚が強くなったのでやめる。
9:00にまた少し弱くなったので、雨具をつけて出かける。前々日に道をはずした所で、下から来た人が直進しないようにと、木の枝3本で通せんぼしておく。テントから40分で、本谷を右岸に渡るが、足首くらいまで水に浸かるだけで、それほどの問題はなかった。その後15分でコクイ谷出合に着く。根の平峠の方へ行くにはここを越えなければならないが、コクイ谷の水量は本谷の2倍はある。前々日の水量と比べられないくらいの増え方である。かなり濡れるのを覚悟なら、渡って渡れないことはないが、しばらく歩いてから戻ってきたときにさらに水量が増えている可能性がある。神戸・都賀川の事故があったばかりなので、雨の中でお菓子を口にしただけで、引き返す。沢歩きの恐ろしさを垣間見た気がする。
本谷(左)とコクイ谷(右)の合流点を上流側から。コクイ谷の水量の方が多い。
本谷も難なく渡り終え、杉峠に戻る。先ほど他の人のためと丸太の通せんぼを置いたところで、またそのまま直進し、木の枝に気がついて軌道修正した。最初の受益者が当人だったことになり、おかしかった。11:10に「佐目峠への難路」という標識の所に着く。ここからテントまでは13分しかからないので、少しだけ寄り道して探索することにした。最初のテープが目につくだけで、あとは小さな沢に分け入るように思えた。これでは確かに難路らしいなと、すっぱりと諦めて、帰路についた。その小沢のすぐ西に大きな沢が流れている。その水量があまりに多いので、本谷と勘違いし、その左岸を登っていった。前々日に歩いているのに、間違っているとは思わず登っていった。
やがてその沢を渡るテープがあったので、右岸に渡る。そのあとは、完全に見覚えのないところであると確信が持てた。しかし、所々にテープも見られたので、それに従って登ってみた。かなり高くなり、空も大きくなってきた頃、きれいな水が流れ、日本庭園のような雰囲気の所にでた。そこでGPSを取り出すと、なんと前々日に記録した軌跡に非常に近い所にいる。案の定、そこから3分で佐目峠の広場に飛び出した。すぐそばの水場は少し物足りないなと思っていたが、先ほどの所まで下れば十分の水があることを図らずも確認することができた。次回来ることがあれば、杉峠からこちらに登ってテントを張るのもよいなと考えた。
前日と同じ道を杉峠の方へ下る。やはり杉峠の頭付近は心が洗われるような場所である。ガスに包まれているのも悪くない。13:00前にテントに戻る。雨が止んでいたので、急いで外で食事をする。雨具、スパッツをはずして、そとに広げておき、全くの手ぶらで、迷ったところのチェックに出かける。「佐目峠へ(難路)」の標識が大きな沢を渡った所にあり、その沢の左岸を登っていったことが判明した。10分ほど登ると見覚えのある広場、さらには沢を右岸に渡ったところに出た。ここを歩いたと確認できたので引き返す。10分ほど戻ればよいだけであるが、またまた問題が起こる。下まで降りないうちに、どうせすぐに谷に出るのだからと、来た道でない所へ足を踏み入れた。すぐに山道に出会ったので西に向かう。谷を右岸に渡るところがあった。これが先ほど渡った谷の渡渉点かと深く考えないで渡る。そこには、見覚えのない標識がある。「西は杉峠、北は佐目峠、東はコクイ谷出合」とある。見覚えない標識だったが、杉峠とあるのでそちらに行ってみる。確実にここではないという確信が持てたので引き返す。来た山道をもう少し戻ってみると、行き止まりになっている。また、沢まで戻り、念のためもう少し登り返すとやはり先ほど歩いたところである。もっと下から登ってきたと気がつき、沢沿いに下り、「難路」の標識の所に帰り着く。登り11分、下り27分だった。磁石も地図も持ってきていないので、少し焦った。
テントに戻り、乾かしていたものを取り込み、ゴミを苦労して燃やし、15:00にテントに入る。15:20からまた雨が降り始める。降り方の変化が激しく、大降りになったかと思うと、すぐに小降りになったりする。あと1日なので、明朝もう一度濡れたものを着ればよいのだからと、すべてを乾いたものに着替える。やはり気持ちがよい。夕食後、18:30にシュラフへ。22:00に目覚めたときに、ヘッドランプが切れる。最後の晩でよかった。2:00に目が覚めると、漆黒の闇ではない。雲の後に月明かりがあるのかもしれない。
2008.10.25 雨乞岳、イハイガ岳、綿向山 |
コースタイム
800 テント場、818 杉峠、853-900 雨乞岳(1238)、918-20 南雨乞岳、950-1000 清水頭(1095)、1015-17 P1014、1043-1113 展望台、1144-50 大峠、1243-1300 イハイガ岳(964)、1354-1400 竜王山分岐、1411-1500 綿向山(1110)、1531 5合目小屋、1607 ヒミズ谷出合小屋、1627 御幸橋(ミユキバシ)、1706 北畑口(キタバタグチ)BS
5:45起床。雨がひどければ、甲津畑から降りればよいと考えていたが、好転の兆しがあり、東の空もやや明るいので綿向山へ縦走することにする。風がきついので、食事をしながら、濡れたものを広げておく。棒ラーメン、餅、焼肉、ベーコンで朝食。昼用も含めて、紅茶を多めに作る。
かなり減量した荷物を背負い、8:00に出発する。杉峠まで18分で、空身の時と変わらない。雨乞岳の方へ登り始めると、少し展望が開け始める。プラトーになったところで、パノラマ写真をとるところまで回復した。東雨乞岳もはじめて見たし、イブネや釈迦ヶ岳がはじめて見えた。雨乞岳からこの日に歩く稜線の全体像を見たかったが、頂上に来るとまたガスに包まれてしまった。
南雨乞岳への道は、最初こそ問題なかったが、そのうち完全にササに覆われてしまう。イブキザサというらしい。全く道はない。慌ててGPSをオンにして、いつでも引き返せる態勢をとる。しばらく闇雲に進むと、少しガスが晴れ、行くべき方向が分かったので、やや安心する。北側から雨乞岳へ登る道と比べものにならない強烈さだった。中間点あたりから、ササの下を覗き込むと何とか道らしきものが見えるようになった。南雨乞岳に着いても、見通しはない。そのまま前進する。まだササはあるが、もう深刻ではない。30分で清水頭。南西尾根に進みそうになったが、適切な標識があったので、軌道修正。
南雨乞岳もササの中
清水頭への道
清水頭の平坦な山頂部から下る所がわかりにくかったが、やがてテープもでてくる。進行方向が西から北に変わる辺りから、なだらかで穏やかだった道が、シャクナゲ、アセビなどが密に繁る、岩の多い道に一転する。道のそばに展望台のような岩があったので、はじめて腰を下ろし、パンの残りくず、カロリーメイト、チーズなどの残り少なくなったものを口にする。そこを出てしばらくして3人組とすれ違う。初日に出会った夫婦からほぼ4日ぶりの人間だ。急坂を下りると大峠となる。25000地形図に書かれている点線よりずっと東側のコルの所が大峠だと思う。
展望台から見た綿向山からイハイガ岳への稜線
一息入れてからイハイガ岳への登りに取りかかる。左手に見える崩落地が迫力ある姿で迫ってくる。稜線の、半分は土がなくなり、傾いた木が沢山並んでいる。あと何年の命であろうか。Bryce Canyonの松を思い出す。イハイガ岳では完全に天候が回復し、日が射してきた。綿向山もすっかりと姿を見せているし、南側の仙ヶ岳の方も見える。そこから綿向山への稜線もなかなかよい眺望に恵まれた。竜王山への分岐の手前でパノラマ写真をとったが、結果的にそこがベストの地点だった。銚子ヶ口から、イブネ、雨乞岳、鎌ヶ岳、仙ヶ岳などが勢揃いだ。竜王山へピストンしたかったが、食料がなく、空腹を覚えたのでやめることにする。覗き込んだ山がそれほど魅力的でなかったことも理由の一つである。勘違いしていたのだが、それは竜王ではなく、竜王までは2時間近くかかるので、ピストンするとすれば、綿向を先に済ませて、竜王から下山せねばならなかったのである。詳しく調べていなかったのでどのみち無理だった。そのすぐあとに、面白い形をしたブナの木があった。
ブナの木
綿向山から鎌ヶ岳
たどり着いた綿向山には、予想に反して誰もいなかった。それなら、またゆっくりしようとバーナーを取り出して最後の残り物を食べる準備をしていると、1人の女性、4人連れの家族がやってきた。子供達が興味深そうに鍋の中を覗いている。15:00に表参道の階段を下り始める。7合目の行者コバ、5合目の小屋、ヒミズ谷出合の小屋などを通り過ぎ、御幸橋を目指す。御幸橋には駐車場があり、そこが一般の登山口で、案内はそこまでだ。バスに乗る人に対する指示はない。
一応大体の地図が頭に入っていたので、西明寺川に沿った道を西に向かう。思った通り、県道への近道だった。そこから北畑を目指して南西に向かう。途中で車を止めて、間違いない方向へ歩いていることを確認する。北畑で、西側の夕焼けを背に、山並みが連なっているので写真を撮っていたら、農作業の人が比叡と比良だと教えてくれた。なにか予想しない名前が出てきたので驚いた。もっと南側の山が見えているものと思っていた。登山口から40分で北畑口のBSに到着する。結局、この日は雨に降られずに済んだ。BSの隣に店があったがビールなどはない。カップ麺を買って空腹を癒した。
前回と同様、手強い山域という印象を新たにした。