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2007. 1. 14  Bryce Canyon National Park

前日のZionに続いて、主目的ともいえるBryce Canyonに向かう。この一日は、これまでの山行中、印象に残るベスト5に入るものになったと思う。


同行: 単独

コースタイム

0820-30 Visitor Center、0834-0910 Sunrise Point、0918-31 Bryce Point、1100 Hat Shop Trail、Peekaboo Loopを探ったのちBryce Point、1135 Sunrise Point、1140 Fairyland Loop Trail入口、1225-1235 Tower Bridge、1315 Fairyland Canyonを見下ろす地点、1400 Canyon最低部、1459 Fairyland Point、1555 Boat Mesa先端、1627 Fairyland Point、1658 車道、1715 公園入口、1720 レインジャーの車に便乗、1724-1735 Sunriseの展望台。

モーテルの部屋で簡単に朝食をとり、暗いうちに出発する。20分走ってからガソリンが少ないことに気づき、迂闊さを後悔しつつ、モーテルの町まで引き返す。そのため、楽しみにしていた夜明けのBryce Canyonを見ることができなくなってしまった。途中の道も、一面の冬景色であったが、運転に危険はない。しかし、公園ゲートで気温を聞くと、−23℃という。これまでに経験のない温度である。まずはVisitor Centerでコースの様子を聞く。行きたかったHat Shop Trailのことを聞くと、ここは問題ないというので安心する。まずはSunrise Pointに行って、日の出には間に合わなかったが全体の景観を眺めることにする。駐車場に停めて、少し上がっていくと、それまで全く見えなかった岩の尖塔群(Hoodoo)の光景がパッと目に飛び込んできた。写真ではよく知っていたのであるが、とてつもないスケールで広がっていて、思わず息をのむ。赤褐色の岩塔の上には一面の青空、下には雪がうっすらと積もっているので、色のコントラストが美しい。また、手前のHoodoo、少し離れた岩壁(Sinking Shipなど)、そしてはるか遠くの山稜などが立体的な舞台を構成している。なんの予備知識もなしで、この光景を始めて見た人はどんな思いであったろうか。原住民であれ、白人であれ、驚嘆の声を上げなかった人はいないのではないだろうか。

つぎにHat Shop Trailの出発点であるBryce Pointに行く。駐車場のすぐ手前で頭の鹿がこちらを見ていた。この駐車場からの眺めもすばらしい。Bryce Amphitheaterというらしい。よいカメラが欲しくなるところであるが、軽量第一主義なのでしかたがない。誰もハイキングコースには入っていないのであろう、車は1台もない。静かな山歩きができそうだと喜んだが、実際には道が分からなくて往生してしまう結末となった。下り始めると、すぐに閉鎖されているPeekaboo Loopへの道を左に分ける。標識通りに進んだが、すぐに足跡は消えている。スキーのシュプールがあるのでそれについていったが、どんどん西の方向に回り込んで行くので引き返す。南東を目指して膝までの雪をかきわけ、崖の上に出る。崖の上から見回しても谷へのルートは見あたらない。さきほど見たPeekaboo Loopの道ははっきりとしているので、そちらへ方針転換する。ゲートに張られた鎖をまたぎ、少しでも危険が見えたら引き返そうと決めて、下っていく。Hoodooを間近に見ることができ、来てよかったという実感がわいてくる。20分ほど行ったところで、斜面のトラバース道にガチガチの氷が張っていた。たった数歩の巾であるが、アイゼンだけでなく、ピッケルも欲しいくらいであった。この後も似たような所が次々出てくるために立ち入り禁止になっているのだろうと納得し、引き返す。

 

Bryce PointからのAmphitheater



まだ時間はたっぷりある。つぎの候補として考えていたFairyland Loop Trailは、夏で4-5時間、高低差700 mのハードコースとされている。様子を聞くため、もう一度Visitor Centerに寄る。Hat Shopのことを話したところ、崖の所をもっと南まで行けば、分かったはずと言っていた。はじめにそれを言ってくれればよいのにと悔やんでも、後の祭りである。Fairyland Loop Trailはどうかというと、こちらは迷うような所はないと保証してくれる。雪の様子によってはTower Bridgeから引き返してくればよいと教えてくれる。

寒いところでは食事もできないだろうからと、車の中で腹に入れられるものを入れておく。耳や頬が痛いので毛糸の帽子をかぶり、2枚のシャツの上にフリースのシャツを着るという多少の厚着で出発する。30分も歩くと少し暑くなって、これらを脱いだ。この日の最高気温をあとで調べると−12℃となっていたが、とてもそのような低温に思えなかった。日差しがきつくて体感気温が高いのであろうか。先ほどのコースより、さらに身近に尖塔群を眺めながらのすばらしい散歩となる。今見ている地層は、数千万年という期間をかけて堆積したもので、その後の浸食で台地に溝ができ、溝が広がって痩尾根となり、さらにそれにできた裂け目が広がって尖塔になったという。




Fairyland loopへ入っていく


Fairyland loopの一部



このコースの目玉であるTower Bridgeは、本の尖塔の上を橋のように別の柱が横たわっているというものである。太陽を背に、造形の妙を示している。アメリカ人が好きな光景である。



Tower bridge

Tower Bridgeのあとの道がわからず少しウロウロする。もっていた2つの地図の一つはそこで鋭角に曲がるようになっているが、もう一つの方は、300bほど引き返したところにFairyland Pointへの分岐点があるとなっており、そちらが正しかった。分岐点のあとはジグザグに砂と雪のまじった斜面を登っていく。Tower Bridgeまではかなりの足跡が残っていたが、ここから先をここ数日間で歩いた人はいないような気配である。兎の足跡は頻繁に出てくる。すぐにTower Bridgeは目の下になり、目立たない岩峰のひとつに過ぎなくなる。このルートにも、城塞のようなもの、寺院のようなもの、数本だけで立っているもの、抱えられそうなくらいの細いものなどと様々な尖塔がある。とにかく変化に富んでおり、ついつい写真を撮りたくなる。城塞のように見えるのは、あとで調べるとBoat Mesaだったようだ。Mesaというのは上部が扁平な台地状となった高地のこと。



Boat Mesaを見上げる


やがて大きなカーブにさしかかる。これを回れば、ほぼ見どころは終わり、コースの目処もつくのかなと考えていた。しかし、予想とはちがい、これまでと同じくらいの規模の新しい光景が広がっていた。Sinking Ship2257b)がうんと近づいてきた。その左奥遠くには広い台地が広がっている。おそらくTable Cliff Plateauの台地(>3100b)であろう。目の前には、今回のコースの最低点であるFairyland Canyonの谷(2180b)があり、そこへ100bほど下りてから、また登り返すのである。たいした高低差ではないが、まだ先は長いなと実感する。まだ13時を回ったばかりとはいえ、このような大自然の中で万一動けなくなったりすると、人が来る可能性はないし、温度はどんどん低下するので、命に関わる事故になりかねないなと少し不安になってきた。



右手の傾いた岩がSinking ship。奥にTable Cliff Plateau



景色は十分満足したので、一刻も早くCanyonまでは下りたいと思った。幸いすぐに下り道になる。ほぼ谷底に下りたかなというところで、この日初めて腰を下ろし、リンゴをかじる。しばらく登ると上から下りてきている足跡があらわれる。これでもう心配はないかなとひと安心する。少し寒くなってきたので、帽子をかぶり、フリースのシャツを着る。徐々に高度をあげ、15:00にFairyland Pointに到達した。ここからの眺めもなかなかのものである。説明板に、崖縁は年に5cmの速度で浸食が進み、後退しているという説明があった。実際、崖縁に立っている松の根が半分空中に浮いているようなものもあった。



あと数年の命のLimber pine


あとはRim Trailを歩いてSunrise Pointまで4km程度なので、夕暮れをSunset Pointで見ることができるなと目算を立てる。雪の上の足跡もしっかりしている。しかし、足跡はそのうちはっきりしなくなり、見失ったと思うとまた見つかりといったことを何度か繰り返すうちに、全く見えなくなってしまう。どこかでまた合流するだろう、Rim Trailという名の通りに、崖の縁に沿って歩けば問題はないと思ったのが間違いであった。縁から突きだしているBoat Mesaという半島を歩いていたのである。公園でもらった簡単な地図にも一応出ていたのだが、十分確認しないまま歩き続けた。そのうち、Mesaの巾が狭くなり、左手だけでなく右手にもCanyonが見え始めたのでおかしいと思う間もなく3bほどの狭いギャップで行き止まりとなった。兎さえ渡っていない崖である。年を経ると、この垂直の隙間が浸食によって広がり、岩塔へと変化していくのだろう。とにかく、間違いであることを確信したので、自分の足跡を忠実に辿ってFairyland Pointにもどる。あらためて正しいRim Trailの道を探す気にはなれない。万一、もう一度間違うと、それこそ帰れなくなる可能性がある。

Fairyland Pointには車道も来ているので、多少の遠回りであるが、安全である。物好きな人がドライブで来ておれば、ヒッチハイクができるかもしれないと甘い期待をもつ。しかし、道路は封鎖されており、雪で完全に埋まっている。それでも広い道路を歩くので心配は全くない。30分で車の往来している乾いた道路に出て、さらに15分で公園のゲートに着く。巡回していたレインジャーの車が止まり、駐車場まで送ってやるという。「あと少しなので、全部歩く」と一旦答えたが、「あと1マイルはあるし、これからどんどん冷えてくるよ」と言われ、好意に甘えることにする。17時半頃に駐車場に着いた。

夕暮れの景色が見えるかと、もう一度展望台まで足をのばす。Sinking Shipの奥のTable Cliff Plateauにだけ赤い夕日が当たっていた。とうとう今日のコースでは誰にも会わなかったなと思いつつ車にもどる。ビックリしたのは、その数分間の散歩の間に急降下した温度。車に戻ってくるとガタガタと震えがきた。車を走らせながらヒーターを最強に入れても、しばらくは震えが止まらなかった。レインジャーの車に乗せて貰わずにあと30分歩いていたら、かなり冷えてしまったであろう。いわんや、この温度で渓谷に取り残されたら、やはり凍死だったなとまじめに怖くなった。



残照の大峡谷

夏に行ったこともない所へ、冬に地形図も持たずに歩くのは非常識といったごく当たり前の教訓を再確認したハイキングであった。帰国後インターネットを調べていると、日本の国土地理院と同様に、USGSの地形図をコピーできることを初めて知った。万分の程度を数枚コピーして持参しておれば、どちらのコースも問題はなかったはずである。


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