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東海道新幹線からの山岳展望


これは『新ハイキング』20076月号〜10月号に掲載された記事に手を加えたものです。

昨年の、東北新幹線の車窓から見える山の連載につづき、今年も東海道新幹線で楽しんだ「山座同定」を掲載させていただくことになった東北新幹線に比べると、観察の歴史は短いし、登った山の数も100座程度と少ない。関連する出版物やウェブサイトもかなり多いので、なかなか特徴を出すことが難しそうであるが、自分のやりかたを通すしかない。前回と同様に、カシミールを使わないで、自分の目と足で調べたものを書くことにする。掲載する図面は、実際に窓から見た感じを大切にするため、標準レンズの写真だけを元にして作成した。


新幹線から山座同定を楽しむ(1)東京=新富士

第1回は、東京と新富士の間で見える主な見どころを、山塊ごとに紹介するこのシリーズでは、同じ山塊を別の場所からみたときの、姿の違いにも焦点をあててみた。時間を追った書き方でないので、車中で照らし合わしながら読むには少し不便かもしれない。

 奥秩父、奥多摩、奥武蔵の山々


東北新幹線に比べて、東海道からの奥秩父、奥多摩の展望は少し淋しい。雲取山から新横浜までの距離は、大宮までの距離とそれほどちがわないが、ゆっくりと全体を見渡せる場所がないためであろう。

大井町線と交差するあたりで、辛うじて目にすることができ、多摩川の左岸からは、大菩薩嶺から武甲山の限られた範囲が見える。最良のスポットは、多摩川から3 kmほど西の木月からであろう。ビルでとぎれるものの、少し高い所を走行するので、大菩薩嶺、国師岳、大岳山、雲取山、武甲山、丸山などを見渡すことができる。見るだけなら、新横浜手前の大倉山付近でも可能である。

丹沢山地の表と裏


もちろん山に表と裏があるわけではないが、同じ丹沢でも、大山が左にあるか右にあるかで、印象は大きく異なる。まずは前半の丹沢の展望から始めよう。

品川を出てしばらくすると、富士と丹沢が見える。その後のビューポイントは、大井町線と交わる地点、多摩川を過ぎて元住吉の近くから、そして鶴見川である。そのあとは、新横浜をはさんで、しばらく展望はない。

西谷町で相模鉄道と斜めに交差する地点で視界が開け、久しぶりの富士・丹沢の景観が得られる。横浜市を離れ大和市に入ると、大山がひときわ大きな姿で迫ってくる。藤沢市の用田には多少の田園が残っており、そこからの眺めを図示しておく。丹沢山の右に丹沢三峰と大山三峰が重なって見えている。

二宮トンネルを過ぎて小田原市に入ると、大山の左に塔ノ岳などが見えるようになる。二宮トンネルと弁天山トンネルの中間の小船から見たパノラマ図には、檜洞丸、塔ノ岳、大山などがずらりと並ぶ。しかし蛭ヶ岳、丹沢山は見えていない。檜洞丸、蛭ヶ岳、丹沢山、塔ノ岳のすべてを見ることのできる地点はないのかなと思っている。酒匂川を越えてから振り返って見る丹沢もよいが、もう大山は見えない。

アルプスの一つ


用田からの図の右手にある仏果山、経ヶ岳、華厳山の一帯は相州アルプスと呼ばれている。また、東海道新幹線の左側車窓から始めて見る山もアルプスの名をもっている。相模川の少し手前から見えはじめ、金目川をすぎると近くに迫ってくる湘南アルプスである。左端にあるのが高麗山、その右手に、それより若干標高の高い浅間山やテレビ塔のある湘南平が並んでいる。

それにしても日本にはいくつアルプスがあるのだろうか。このシリーズでは、3大アルプス以外にも、相州アルプス、湘南アルプス、沼津アルプス、湖南アルプス等が登場する。ある人の調査では、一般に認められていないものも含めると、49もあるらしい。

富士箱根伊豆国立公園


日本で最も人気のある国立公園を横切って東海道新幹線は走る。この中で富士山は、品川をでてから豊橋に近づくまで、あちこちからその優美な姿を見ることができる。東海道線からの山岳展望が、そのおかげでどれだけ豊かになっているか分からない。あまりにも別格といった趣があるため、今回は取り立てて書くことはしなかった。書く気になれば、優に一回分を富士山で埋め尽くすことができよう。

さて箱根である。相模川を越えてしばらくすると、富士山の左に神山、明神ヶ岳、きれいな三角形の金時山が姿を見せる。ぽつんとはずれているのは矢倉岳である。御殿場線と交差する所では、金時山は見えなくなり、矢倉岳は富士の右下となる。

酒匂川から小田原駅までの短い区間は、町並みが混み合ってくるものの、箱根の山のすばらしい展望が得られる。かわいらしい両二子山から、どっしりとした明神ヶ岳までの図を載せておく。

 


小田原駅を過ぎて早川まで来ると、明神ヶ岳などがわずかに見えるだけとなる。そのあとは熱海をはさんでトンネル続きとなり、再び箱根に出会うのは三島となる。三島駅の前後で右うしろを振り返ると、図に示すように、箱根外輪山の丸岳、三国山、鞍掛山が見えている。鞍掛山とその右のピークには無線中継塔があるので目安にしやすい。

 

どこまで見えるか、南伊豆の山々


東京−熱海間で伊豆半島を展望できないのは残念である。小田原駅の前後で左側車窓から進行方向を見ると、真鶴岬の手前に、石橋山古戦場のあたりを見ることができる。頼朝がはじめて兵を挙げたものの、失敗して房総に逃れたということで有名である。山とは名ばかりであるが、古戦場が新幹線から見えるかどうかが気になったので、夜に歩いてみた。古戦場とされている神社の場所から、三浦半島は見えたものの、小田原は見えない。少し下に降りると小田原城のライトアップが見えたので、新幹線からもこの辺り一帯が見えていることになる。

熱海から続くトンネル群が終わり、三島に近づくと、左側車窓から図に示すような興味深い形の沼津アルプスが目に飛び込んでくる。東北新幹線からの七ッ森と、形も高度もよく似ている。

 この図のすぐ左には茶臼岳、大嵐山という奥沼津アルプスが続いている。富士山と真下に見える海の展望を満喫できるので、人気のあるハイキングコースとなっている。原木駅から沼津駅まで全縦走したが、累積高低差は2400m程度となる。途中の鷲頭山の近くに、平重衡に関係する「史跡」がある。数々の合戦で活躍したが、一ノ谷の戦いで捕らえられ、頼朝に預けられていた武将である。その後、重衡は南都に送り返されて処刑されたのであるが、この山中には「切腹の場」が保存されている。このような伝説を作りたくなるほど、人気があった武将ということであろう。沼津アルプス越しに、葛城山、達磨山、金冠山などが見え隠れし、左手には天城も見える。

三島から西に進むにつれて、伊豆の山々が次々と顔を見せるようになる。図に示したのは岳南鉄道江尾からのものである。伊豆半島の主な山々の多くが見えている。一番右の目立ったピークは大瀬崎の小山である。富士市の田子の浦港や、さらには本稿の範囲外となるが、富士川鉄橋や清水港からなら、もっと南の魂ノ山、笠蓋山、長九郎山、高通山などを指摘することができるようになる。



次回は、南アルプスが登場する。


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