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東北新幹線からの山岳展望

これは『新ハイキング』20064月号〜10月号に掲載された記事に手を加えたものです。



新幹線から山座同定を楽しむ(4)那須塩原=福島



展望の南限と北限

前回、話題にした那須茶臼岳が見える範囲であるが、筆者が確実に見たと言えるのは、南は鬼怒川、北は郡山市と白沢村の境である。しかし、新幹線の運転席からなら、もっともっと南から見えているに違いない。


果樹園の樹木が一斉に花をつける東北の春

もも、すもも、りんご、なしの生産量で、福島県は全国の上位にランクされている。春になると次々と花が咲き競い、車窓からの景色も一段と楽しくなる。

吾妻連峰と安達太良連峰を一望できる所は意外に少ない。福島駅を出てすぐ北の所、信夫山トンネルに入る前が最適ポイントであろうか。信夫山トンネルの中で線路が少しカーブするため、トンネルの北側では安達太良が見えにくくなるのである。信夫山は大きく分けて、西側から羽山、羽黒山、熊野山の三山からなっている。
古代から山岳信仰で栄えてきたが、現在はサクラの名所としても有名である。最高点は羽山にあり、丁度トンネルの真上になるので運転席からしか見ることはできない。トンネルを出たあとの吾妻連峰もよい。北へ離れるにつれて、家形山の右の大日岳から栂森に至る山々が存在をアッピールするようになる。

摺上川から蔵王トンネルまでの区間は、少し高台を走るためもあり、東側に美しい風景が広がる。霊山の切り立った崖がまず目につく。9世紀には壮大な寺院群があったが、南北朝の動乱の際にすべてが破壊されたという。奇岩が連続する登山道は、歩いてもなかなか味わいがある。とくに紅葉の季節がよい。霊山だけではない。その南側にも魅力のある山々がある。図に示す花塚山、屏風山から御幸山への尾根、女神山の山並みである。それらの後方には、郡山、二本松から見えた日山や口太山もかすかに見えている。これらに目を向けている間に、西側の安達太良、吾妻連峰は遠くに去り、すぐそばのどっしりとした半田山がすべてを隠すようにあらわれる。この山を過ぎるとすぐに蔵王トンネルに入り、このあと福島の山に再びまみえることはない。



手が届きそうな近さに蔵王


蔵王トンネルを出ると南蔵王と言われている連峰が間近に迫ってくる。図の左半分にでている不忘山から屏風岳への主稜線、およびその手前の水引入道、馬ノ神岳、烏帽子岳がそれである。いずれも鋭さはないが、大地に根を張ったようにどっしりとしており、これが東北の山の魅力の一つと言えよう。北蔵王の一部である雁戸山が奥に顔を覗かせ、その右にはアケラ山と青麻山が並んでいる。写真は、南蔵王とその左手が写っているものを採用しておく。

南蔵王を正面から見る



蔵王と関係深い歌人に斉藤茂吉がいる。

   陸奥をふたわけざまに聳えたまふ 蔵王の山の雲の中に立つ

という歌が有名であるが、

   あさけより日の暮るるまで見つれども 蔵王の山は雲にかくろふ

という歌などに接すると、山岳展望同好の先輩という親しみを感じる。もっとも彼の本拠地は上山なので、反対側からの蔵王を見ていたことになる。不忘山の南にある峠を越えた先が上山である。


陸奥をふたわけざまに聳える国境稜線の山

白石蔵王駅をでるとしばらくトンネルが続くが、白石川を渡るところで、もう一度ゆっくりと南蔵王を見る機会がある。白石川を過ぎてしばらくすると、ちょっとした田畑が広がる村田町となる。そこで蔵王から船形、泉にいたる広範囲な展望が得られる。ここから見る蔵王は、南蔵王だけでなく、刈田岳、熊野岳から雁戸山に至る北蔵王がその全容を見せる。その展望図を省略するのは惜しいのであるが、ここではその代わりに、それらの北側に連なる県境稜線の山々の図を載せよう。雁戸山の北側は笹谷峠で一旦落ち込むが、その北には神室岳、大東岳、面白山などが前山のうしろにずらりと並ぶ。すこし離れて見える船形山、泉ヶ岳などはピークの先が前山越しにチラリと見えるだけなので、積雪期でなければ存在に気づくことさえないであろう。

県境の山の中では、左肩下がりの特徴的な形をした大東岳がよい目安となる。この山はそれほど高くはないが、どこから見てもすぐ目につくので、宮城の山々からの山座同定の際に大いに助けになる存在である。



ふたたび、鉄橋からの好展望

仙台平野に入ってくると、蔵王、大東、船形といった宮城の主な山々がもう一度見え始める。荒川、鬼怒川、箒川などがそうであったように、名取川の鉄橋からはさえぎるもののない展望が得られる。といっても、全体を同時に、最高の状態で見渡すことはできない。船形方面を見るなら川よりもう少し南がよいし、蔵王なら川を渡ってからの方がよいのである。図には、屏風岳から大東岳へと続く連山、および手前にある太白山を示している。太白山はわずか
321 mの高さであるが、仙台のシンボル的な存在であり、どこからみてもほぼ完全な円錐形をしている火山が溶岩をはき出した通り道のあとで、地表の溶岩がすべて侵食された後に残ったものという。5-8百万年前にできたらしいので、百万年程度の年齢の蔵王よりはるかに年寄りということになる。

この近辺での山好きなら誰もが知っている山なのに、車窓からは見つけにくいものとして五色岳がある。蔵王のお釜の手前にある山であるが、新幹線から見ると熊野・刈田を結ぶ稜線の下になるので分り難い。4月の中下旬なら、雪の残る稜線をバックに黒々とした山容を見せるのでなんとか識別できる。




マイナーではあるが、特徴のある山たち


最後に、少しマイナーな山たちの話を載せておこう。このような山も歩いてみれば、それぞれがそれなりの魅力をもっている。相馬市から岩沼市にかけて続く阿武隈山脈の北端の山々もそのような例である。亘理地塁山地といわれるものである。両側の地層がずれ落ちて残ったもので、300-400 m程度の山が全長30 kmにわたって一列に並んでいる。新幹線の東側にある山であるが、西側の窓からの方がよく見える。仙台駅の近くで、列車が南東から北西方向に進む際に、南の方向に見えるのである。ビルの谷間から鹿狼山、深山、四方山などをかすかに認めることができる。

もう一つ、マイナーな山になるが、南仙台から仙台の間で、牡鹿半島を遠望することができる。これらも、ビルが邪魔をするので一望は無理である。
400 m級の牡鹿半島の山々から金華山にかけてなんとか判別することができる。ここに載せた図は、仙台駅の近くにある仙台一高の前から見たものである。この地点からでは上品山と大六天山のピークがビルに隠れている。この図は2002年のものであるが、手前の更地が工事中であったので、今では見えるピークの数がさらに減っているにちがいない。

この区間での難問は、船形山の頂上を仙台市内から見ることができるかどうかである。読者のみなさんはどう思われるだろうか。


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