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東北新幹線からの山岳展望

これは『新ハイキング』20064月号〜10月号に掲載された記事に手を加えたものです。



新幹線から山座同定を楽しむ(2)小山=那須塩原


新幹線から見える百名山


前回に、東京=小山間でいくつの百名山が見えるかと宿題を出した。しかし、実を言うと筆者も正解は知らない。文中に出てきたのは11座。それ以外に男体山、奥白根山、武尊山は間違いない。可能性があるが断言できないものに、天城山、苗場山、四阿山、草津白根山などがある。八戸までの全区間で確認した百名山の数をあげておくと22座となる。さらについでに、田中澄江の花の百名山も21座認めることができる。似たような数字であるのが面白い。今回は小山=那須塩原間について述べる。ここも魅力ある山が目白押しに並んでいる。


芭蕉が見ることができなかった日光男体山

「奥の細道」でその健脚ぶりをいかんなく発揮している松尾芭蕉は、山を眺めることも好きだったに違いない。日光で

   あらたうと 青葉若葉の 日の光

の句をものにしたあとに
、「黒髪山(男体山の旧称)は霞かゝりて、雪いまだ白し」と少し残念そうに書いている。新幹線からでも男体山はかなりの確率で見えるので、芭蕉はかなり運が悪かったと言える。一方、白根山は見える日の方が少ない。男体山と白根山の距離はわずか10 kmばかりなのであるが、気象条件がよほどちがうのであろう。

ここでは宇都宮駅に近づいた所からの日光方面の図を載せてある。小金井から宇都宮にかけては、袈裟丸山から赤薙山までが一望できる絶好の区間である。この山域でなかなか分からなかったのが、夕日岳の左に見える尾根である。冬は真っ白になるので県境の山と思っていたが、どうも黒檜山と太平山らしい。そのうしろの宿堂坊山などの方が雪は少ないようである。赤薙山の東にある丸山もなかなか見つからなかった。木暮理太郎氏が東京から認めているというのに、近くを何度も通っていても分からないのである。
登ったときに、名前通りの丸い山だなという印象をもったため、こんもりと見えるものという先入観が強すぎたようである。図の右端に顔を出しているのが丸山である。


鬼怒川からしか見る機会がない奥鬼怒の山々

宇都宮を過ぎると、ゴツゴツの古賀志山、ポコポコの篠井富屋連峰、コンモリの羽黒山といった特徴のある形の低山が目を引く。

それを通り過ぎると鬼怒川になる。川をまたぐ鉄橋は、どこでも上流の山の好展望地であることが多いが、ここも例外ではない。手前には大笹山、月山、夫婦山、大日向山、明神ヶ岳などの鬼怒の山々があり、その奥には栃木・福島の県境の山々を見ることができる。図は鬼怒川の土手からのものであるが、孫兵衛山、帝釈山、田代山といった県境の山が見えている。鬼怒川の真ん中からなら台倉高山、2.5 kmほど北にある荒川からは黒岩山を望むことができる。奥深い山々であるが、距離にすると50 kmに過ぎない。燧岳が見えている可能性はゼロではないが、たとえ見えたにしても肉眼や普通のカメラで確認することは不可能であろう。

このシリーズで取り上げる多くの山々は、程度の差こそあれ、あちこちの地点で違った姿を見せてくれるのであるが、これら奥鬼怒の山々に関しては、ここ以外では全く見ることはできない。貴重な場所である。



地図の深読みを要求される高原山

塩原温泉の南に位置する鶏頂山、釈迦ヶ岳、前黒山等を総称して高原山という。鬼怒川からでもすでに堂々とした姿で望まれる。

地形図に名前のある剣ヶ峰を見つけるのは難題である。それより40 m以上高い無名峰が南南東にあり、剣ヶ峰はそのうしろになるからである。気になったので歩いてみた。その無名峰には矢板市の最高峰という札が掛かっていた。その次のピークに立ったとき、その先に見えるはずの剣ヶ峰が見えないので一瞬ドキッとした。剣ヶ峰の頂上はそれくらい下の方にあったのである。剣ヶ峰に立つと、越えてきたピークの左側から西那須野町方面が見通せた。新幹線から見える山の一つであることが確信できたと喜んだのは言うまでもない。西那須野からの図にもわずかに顔を出している。

同じような意味で厄介なのが前黒山である。前黒山の南東側に20 m以上高い無名ピークがあり、新幹線から見えるのはそちらの方なのである。地形図をしっかり見ていれば分かることなのであるが、つい名前のあるものに注意が向いてしまう。この誤りに気がついたのは男鹿山系の日留賀岳に登ったときである。前黒山と思いこんでいた山の西側に立派な山あり、それが前黒山であった。




日光から那須までが見渡せる西那須野

箒川を過ぎて在来線と合流したあたりから西那須野までは、石尊山から始まり、日光、高原、男鹿、那須と130°の範囲に多くの名山が並ぶすばらしい展望区間である。西那須野駅の南から見た男鹿から那須にかけての展望図を示してあるが、ここでは那須の西側にある大倉山の稜線に注目していただきたい。

那須の主脈からわずか4 kmばかり奥まっているだけで冬季の積雪量が全然違うのである。はじめて見たときには、この方向にそれほどの高山があったのかとわが目を疑った。実際には茶臼岳や三本槍岳より低いのであるがそれらに比べて雪が桁違いに白いのである。このように予想外のこともあるが、普通には積雪の状況を頭に入れると色々な意味で山座同定が容易になる。前にある黒々とした山との境界もはっきりするし、積雪量によって大体の位置も分かる。鬼怒川からの奥鬼怒の山もそうであるが、男鹿山系の同定も雪があることによってうんと楽になったものである。






登るのも大変なら、眺めるのも大変な男鹿山系

最後に別の角度から見た男鹿山系を示す。蛇尾川からのもので、正面から見ていることになる。この山には、全長51 kmにおよぶ塩原那須観光道路が1800 mの高みにまで這い上がっている。使われることなく数十年の間放置され、2004年になって完全計画放棄が決定されたが、見るも無惨な爪痕だけは残されたままでいる。これさえなければ、自然がそっくり残された原始の姿が味わえる貴重な山域なので、大変残念なことである。

いずれにせよ、日留賀岳を除けば登山道はないので、どこに登るにしても無雪期には大変な藪こぎが要求される。登るだけでなく、山座同定の方もかなり苦労する。列車が進むにつれて、前後の山の相対的な位置関係が刻々と変わるのは当前のことであるが、この山塊はとくにその変化がめまぐるしい。地形図に名前が出ている黒滝山、鹿又山、安戸山などより高い山がすぐ近くにあるのも紛らわしい原因になっている。名前はないが大佐飛山の南西にある1870 m峰などは実にすっきりとした姿なので目につく。最高峰の大佐飛山はなかなかの恥ずかしがり屋であるが、箒川、余笹川、新白河駅の北など限られたところから辛うじて頂上を拝むことができる。


なお、この区間での東側の山はとくに紹介しなかった。八溝山が見える程度である。これは黒田原からが最も近いのであるが、眺めとしては少し離れた那須塩原あたりからがよい。

今回も宿題を出してみよう。高原山の鶏頂山や前黒山、裏那須の最高峰である三倉山は東北新幹線から見えるだろうか。


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