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2005.
04. 19 - 21 宮之浦岳


懸案の屋久島に行く。早くから格安の航空券を買っていたので、前後好天が続く中、ただ一日雨天が予想される日に登ることになってしまった。それでも、入山日が雨にならなかったのは幸運だった。

同行: 単独

2005. 03. 19 紀元杉から淀川小屋まで

コースタイ

1435 紀元杉BS、1510 登山口、1545 淀川小屋(ヨドゴウ)

空港に着いて、ボンベを買い、持ってきた弁当を食べて終わったところへ安房方面へのバスが来た。予定は2時間後の紀元杉行きのバスに乗るつもりであったが、ここではすることがないので、町に行ってみることにしたのである。安房のバスターミナルにもなにもなく、土産物屋をのぞいた後、しばらく町外れまで散歩したが、すぐに種がつきてターミナルに戻る。屋久杉ランド行きのバスが出ることが分かったので、またそれに乗って途中まで行くことにする。運転手がヤクシカの歩いているのを教えてくれる。終点でも中途半端な時間しかなかったので、ブラブラしながら次のバスを待つしかない。

しかし、樹に囲まれているので下界の暑いところよりよほど気持ちがよい。コイタチが道路を横切っていく。紀元杉行きのバスがやってきて、やっと目的としたバスに乗る。バス3台のすべてが貸切りで、バス会社の経営が心配になる。終点から少し戻り、紀元杉と対面する。周囲が8 m以上もあるもので、樹齢3000年と言われている。本当にそんなに長く生きながらえるかと不思議でしようがないが、驚異というより他はない。4-5人の観光客がいたが、みな無言で、圧倒されている様子が分る。

バスの終点から舗装された道を登っていくと、早速ヤクシマザルにお目にかかる。登山口で登山カードに記入する。1973年の船形山以来、シュラフ、炊事道具を持った登山をしていないので、荷物の重さを心配していたが、肩に食い込むほどではない。空港の計量では8.3 kg程度だったので、昔に担いだザックよりはるかに軽い。登ったという印象がほとんどないまま、淀川小屋に到着する。高度は50 m程度しか稼いでいないのである。翌朝は暗いうちに出るので、登山道の入口だけチェックしておく。淀川に架かる橋を渡るとすぐに階段状の登山道になっている。これなら迷う心配もないと安心する。

本当にきれいな透明な水が流れている川で、見ているだけで心が落ち着く。水を沸かしてコーヒーを飲んでいると、急に寒くなり、セーターを追加する。いくつかのグループが日帰り登山から帰ってきて、少し休んでは通り過ぎていった。5時過ぎに最後の登山者が下りた後は、全くの1人になった。夕食を済ませ、寝る用意をしたあとは、完全な静けさ。淀川の支流が水飲み場となっていて、それはすぐそばを流れているのであるが、音は全くしない。気温は10℃。来たときよりはきれいにしようと、周りのゴミを拾う。1gでも重くなるのは嫌であるが、缶ビールの空き缶が捨ててあったので、それも持って登ることにする。やがて、闇が支配するようになると、後は寝るだけ。きれいな小屋の部屋の端にシュラフをひき、ウィスキーを寝酒に19:00前に寝入ってしまった。夜中に2度ほど目を覚ましたが、シュラフの中は暑くもなく寒くもなく、快適であった。1度はトイレのため外に出たが、全くの漆黒の闇であった。温度は変わらず10℃で、寒いとは感じない。





淀川の清流


2005. 03. 20 淀川小屋から宮之浦岳、縄文杉

0445 淀川小屋、0607 小花之江河(ハナノエゴウ)、0740 栗生岳(1867)、0810-0820 宮之浦岳(1936)、1000-1028 新高塚小屋、1113-1150 高塚小屋、1155 縄文杉、1314 大株歩道入口、1513-1525 荒川登山口、1610 ヒッチハイク、1700 安房

3:15に目が覚める。予定より30分早いが8時間以上寝たので、頃合いであろうと起きることにする。予想通りの雨である。大した量ではないが、水を汲みに行くのに少し濡れてしまう。食事をし、ゆっくり片付けていると、予定した4:45になってしまう。ヘッドランプを頼りに歩き始める。そのうち雨だけでなくガスも出始めて、足元しか見えなくなる。道から少し外れると密集した藪に突入するので、それを避けると必然的に登山道に戻るので、道を外す心配はない。歩き始めて40分でランプを消す。まだまだ暗いが、全体を見渡すのに多少有利である。少しすると森林限界を越えたのか、木が低くなってくる。小花之江河、花之江河ともまだ暗い上にガスが立ちこめ、木の影がぼんやり見えるだけ。花もないであろうから、晴れていてもそれほど変わらないかなと、慰める。




まだ明けやらぬ小花之江河


黒味分れを過ぎると風が強くなり、雨が真横から吹きつけるようになる。それほど体感気温も下がらないので、Tシャツにゴアのレインウェアだけでなんとかしのげる。ガイドブックには色々と魅力的な風景が広がると書いてあるが、地面を見て歩くだけである。投石岩屋というのは分った。立派な岩屋であるが、こんな吹き降りではビバークも大変であろう。川、池、滝のようになった山道を歩くうち、丁寧に油を塗ってきた靴の中も濡れ始める。翁岳、栗生岳、宮之浦岳などの山を見ることもないまま、宮之浦岳の頂上に達する。出発後3時間半である。登ったり下ったりの道で、小屋から450 mも登ったとは思えない。

出発後初めて立ち止まり、小振りのおにぎりを2-3個、口に放り込み、水を飲む。垂直に立っている岩の横にいると、上からの雨は落ちてこない。雨は真横にすごいスピードで流れているのである。10分もすると体が冷えてきたので出発するが、登りより雨をまともに受ける方角となり、体を支えるのがやっとという瞬間も何度かあった。これで足でも怪我すれば遭難ものだなと、注意しながら下る。下の方に残雪が見える所まで下ると、風雨も少しましになる。登山道にも3箇所ほど雪が残っているが、あと数日の命であろうか、端に乗ると崩れるといった状態である。アセビが群れをなして咲いているのが目に入るころには、天候もかなり落ち着いてきた。

平石という地点は分った。足元が大きな石で覆われているので、視界が悪くても分る。坊主岩(これも見えないが)の辺りで、初めてのそして唯一の登山者に出会う。高塚小屋から登って来たと言うので、かなり遅い出発だったのであろう。10:00に新高塚小屋に到着。予定より2時間早い。2度目の軽食を口に入れながら、靴下を絞る。少し快適になるが、歩き始めるとすぐ濡れてしまう。新高塚小屋に着く頃にはかなり雨は小降りになってきた。バスの時間と合わせるため、ゆっくりしようとしたが、水場が見当たらない。少し腹につめ、靴下を絞るという儀式をして出発する。

すぐに縄文杉見物の大勢の人々と出会う。長いアプローチを終えてやっと到着し、昼食をとっている所のようである。小雨の中、あちこちに腰をかけて、くつろいでおられる。そこから少し下るとお目当ての縄文杉である。デッキのところから少し離れて見ることになるのと、大勢の人がいるので、じっくりと対面するという気分でなかった。しかし、これまで見てきた巨大な杉とは一桁違う風格で、これだけを見に来るのでも十分の値打ちがある。その後も、いくつかの巨大杉があったが、なかでも秀吉が切らせたというウィルソン株はすばらしい。中に入れるので、いかに大きい樹であるかが実感できる。また、そのときの切り屑が朽ちることなく周辺に転がっているのも驚異である。





縄文杉




夫婦杉


多くの縄文杉見物者がまだ上で休んでいるためか、下りではほとんど人と出会わなかった。やがて大株歩道入口に着く。安房川に架かる橋の上から、久しぶりに開けた景色を見ることができた。ここまで、頂上より1000 m下ったことになるが、ここもさほどの下りと感じられず、上り下りしているうちに着いたという印象であった。登山道はよく手入れされており、過保護の感もあるが、歩きやすさの点でも、見た目でも比較的工夫されており、悪い印象はなかった。あとはトロッコ道を下るだけとなった。小杉谷集落あとで、対岸に渡ると愛子岳方面の景色が谷越しに広がる。サクラツツジやリンゴツバキの花に新緑が映え、日も射すようになると、一気にゆったりとした気分となる。下界ではほとんど初夏の気分だったので、新緑に出会ったのが意外で、しばらく気持ちの調整ができなかった。

荒川登山口に着くとかなりの人が陽を浴びてくつろいでいた。高年の夫婦は5時に起きてツアーに参加したのに、すぐにダウンして引き返し、ここで仲間が帰るまでずっと待っているのだと憮然としていた。話を聞くと、こちら側も朝はかなりの土砂降りだったとか。予定していた定期バスが出るまで、1時間45分もあるので、尾立峠まで歩いて屋久杉ランドから来ている別のバスに乗ることにする。そこに居た観光バスの運転手に聞くと、「登りばかりで300 mの標高差があるよ」と脅かされたが、ガイドブックには1時間とあるので、間に合うだろうと考えた。

荒川ダムを見下ろし、ヤクシマザルと挨拶をかわしながら歩くと、正面に太忠岳が見えてくる。黄山の飛来石と同じような天柱石という大きな石が頂上に載っているので、それと分る。道ばたに車を止めて写真を撮っていた3人組が乗せてあげると言うのでお願いすることにした。最初は三叉路までお願いできればと言っていたが、結局安房まで乗せてもらい、17時前に町に着いてしまった。夕食までの時間をゆっくりと過ごすことができたので、ありがたかった。夕食時に隣に座った若者は、快晴の宮之浦岳を越えて前日に新高塚小屋に泊まったが、そこには20人以上の人がいたという。そこから宮之浦岳へ登るつもりだった人の多くは雨で断念したため、出会わなかったのかもしれない。

それにしても、この日はよく歩いた。休憩を除いた歩行時間は10時間。昭文社のコースタイムは13時間10分。大きな荷物を持っていた割には早かった。天気が悪かったせいもある。



2005. 03. 21 大川の滝、千尋の滝

最終日は午後の飛行機までの間、バスでもう一度屋久杉ランドに行って時間を過ごそうと考えていた。朝食時に、昨日の人がレンタバイクするという話を聞き、自分もレンタカーをすることに方針を変更する。9:30に迎えに来てもらい、手続きを終えた後、晴れた海岸沿いを南下する。右手に本富岳(モッチョム)の大きな景色が広がり、悠然とした気分になる。




海岸沿いの県道から見た本富岳

最初に訪れた大川の滝は日本100名瀑の一つという。その名誉にふさわしく、高さ、形、水量、周辺の環境、どれをとってもすばらしく、期待以上だった。ここで引き返し、干潮時でないと入れないという平内海中温泉に立ち寄る。自然そのもので好ましい。小さな湯船が3つか4つあり、入れ替わり4人ほどの人と一緒になった。一番潮の引いている時間に行ったのであるが、もう少し海面が高い方が趣きがあったかもしれない。とくにこれといった産業のない島で、観光に力を入れているはずであるが、入りたくなる食堂もなく、屋久町の普通の食堂で昼食をとる。

その後、本富岳の裏にある千尋の滝展望台まで車で登る。250 m程度の標高とはいえ、炎天下のアスファルト道を歩いている女性の2人連れはつらそうであった。この滝は400 mほど離れた所からの遠望しかできないが、それでも周りの景色が大きいので悪くない。ヨセミテで見たような数百mもの大きな花崗岩が左右にデンと座っているのがよい。大雨の後は左右にも一面に滝がかかるという。下りる道もあるので近くまで行くつもりであったが、通行止めになっていた。



大川の滝


千尋の滝


次に猿川のガジュマルを見に寄る。他の観光ガジュマル園より自然なのでよいと宿の人に薦められたからである。外国でもかなり大きなものを見ているが、たしかにここのものは密林の中に生えているという雰囲気がよい。

最後にもう一度ヤクスギランドまで車を走らせた。一番短いコースを歩く時間しかなかったが、それでも屋久島の森林を最後の時間まで堪能することができて幸せな気分になった。樹間から陽が漏れてなんともいえない穏やかな雰囲気をかもし出しており、前日の雨模様の中の神秘的な姿と好対照であった。6時間のレンタルでこれだけのことができたのであるから、やはり車は便利である。帰りの飛行機は晴れていたが、座席が海側だったため、宮之浦岳を見ることができなかった。結局3日間いたのに、一度も宮之浦岳の姿を見ることなく、帰ることになった。




屋久島ランドの原生林



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