トップページへ  地域別索引へ  年次別索引へ  
忘れ難い山行へ  マニアックな山行へ




いつまでも心に残る穏やかな風景  



たいして雄大な景色を見たわけでもないのに、いつまでも心に残っている光景がある。その中で最も印象に残るものを5つ選んでみた。


 

草モミジの毛無岱の夕暮れ
(八甲田山、1989. 10. 10


八甲田大岳に登り、酸ヶ湯温泉に向かって下山していた時のこと。上毛無岱から下毛無岱に下りる階段の途中で目の前に広がる下毛無岱の美しさに息をのんだ。モミジの最盛期の休日というのに、夕暮れが迫っていたこともあり人が歩いていない。それをよいことに、女房殿と階段に腰を下ろして、無言で至福の時間を過ごした。草モミジの赤は陽が落ちるにつれていよいよ赤く、点在する池塘に映る空の青さは実際の空よりはるかに深く、人や鳥の声やアオモリトドマツの樹を揺らす風の音もないまったくの静寂。ゆっくり足を進め、酸ヶ湯温泉に着いたときは辺りは真っ暗になっていた。


純白の井戸沢
(蔵王山、2002. 03. 12


山形蔵王温泉から乗ったロープウェイを地蔵山頂駅で下りたときは、完全なホワイトアウト状態。熊野岳では風も強まり、完全な冬山状態。刈田岳に向かう馬の背に設置されているポールを頼りに進むにつれ、見えるポールの数がどんどんと増え始め、刈田岳山頂に着いたときにはなんと快晴の春山となった。そのまま大黒天の方へ下るのが惜しくなり、井戸沢を経由することにした。ナダレの心配もない沢の中は白一色の世界。空を見上げると、信じられないような青空が広がっている。何の音もしない純白の世界に包まれて最高の時を過ごす。前半の冬景色との落差が大きいこともこの日の印象を強くしていることは間違いない。



大判山とコルの中間で
(恵那山、2012. 07. 10

暑い日に神坂峠から恵那山をピストン登山した。下山途中の名もないコルで左手の谷からのそよ風があまりにも気持ちよかったので足を止めた。すぐに出発するつもりだったのに、休み時間は10分、15分と伸び、とうとう20分にもなった。景色を見るのでもなく、食事をするでなく、疲れをとるためでもないのにこんなに長く足をとめたことは記憶にない。見上げると木々の枝はそよいでいるのだが、音は全く聞こえない。この静けさが心に沁み、このひとときがいつまでも記憶に残ることになったのだろう。



佐目峠の満月
(鈴鹿奥座敷、2008. 11. 12

鈴鹿奥座敷といわれる神崎川の源流地帯にはよく通った。青い流れと白い花崗岩に彩られた渓谷、そこから別れる数々の個性的な沢、新緑やモミジの疎林、イブネ・クラシという天上の庭園などを愛でながら、はっきりしない踏み跡を探るのが楽しかった。昼間の活動を終えて、ひとけのないテントサイトでの夜もいつも幸せなものだった。豊かな水に恵まれた河原の夜も、狭い空が星で埋め尽くされるときもあり忘れ難いが、ここに取り上げる佐目峠もお気に入りの場所だった。沢沿いと違って広々としたのびやかな雰囲気がすばらしい。食事を終えた後、満月を見上げながら、焚火のそばでゆっくりと酒を呑んだ夜はとくに愉快だった。



野瀬大杣池
(丹上山系、2019. 02. 26


丹上山系にある志久の峠という古くからの峠を越え、野瀬大杣池の縁で休憩したことがある。池の遠い所に小さな水鳥が乱舞しているように見えたので、目を凝らしていると、遠くで群舞していた水鳥がサッと別れ別れになったかと思うと、近くで別のグループが踊りだしたり、池全体から姿を消してしまったりした。池の面に動いているさざ波に陽の光が反射しているのだった。風の動きにつれて波は盛んに変化するので、本当に見事な光景だった。陽が陰って、湖面が静かになったときやっと腰を上げた。




トップページへ  地域別索引へ  年次別索引へ  
忘れ難い山行へ  マニアックな山行へ